大事なことは今とは限らない
二十歳のとき、同い年の彼の誕生日にディナークルーズを予約した。
海や船が大好きな彼。
一緒に沖縄旅行に行ったり、海沿いへドライブに出かけたりしていた。
互いに仕事をしていて、二人でゆっくりと海に行く時間があまりなくなってきた7月が彼の誕生日だった。
思い出に残る出来事をプレゼントにしたくてディナークルーズを選んだ。
クルーズといっても、地元のバス会社が運営していて、案外リーズナブルにフレンチのコースを堪能できた。
他のお客さんは50代以上と思われる夫婦や、大人カップルが多かったので、私たちはかなり若いカップルだったと思う。
乗り込むなり、デッキに出て写真を撮ったりしていて、席に着いたのは私たちが一番最後だった。
ホテルのレストランのようなフロアが二つあり、私たちは一階のレストラン。
そもそもフレンチのコースをあまり食べることがない年齢だったから、前菜の時点で「なにこれ!美味しそう!」と大きな声で言いそうで、二人ともニヤニヤしながら名前が分からない料理を堪能して楽しかった。
一階のレストランということは、船底に近い方なので、静かな海なのに揺れをたまにかんじた。
だからか、私はアルコールは遠慮していたが、お酒に強い彼はグラスビールを頼んだ。
メニュー表を見て、普通のお店よりも高いビールの値段に、たじろいでいたが、それは彼の誕生日だから気にせずに頼んでもらった。
こういうのはこっそりと支払いをするものだと思ったら、思いっきり席でお会計をしなければならないのを知った。
誕生日なんだからはからってよ!と思いながら支払いをした。
日暮れが遅い7月なので、メインのお料理が来たころに日が沈んだ。
綺麗な風景と美味しいフレンチで、楽しい夜だった。
願いが叶うなら一緒に食事したい
私には、人に言えないある願いがあります。
とは言っても、良くない願いではありません。
それは、時を越え仲直りしたい人と再会して食事をすることです。
子どもの頃、私はかなり偏った嫌な性格だったように思います。
決して、可愛らしい子供ではありませんでした。
そんな私は、ある同級生の女の子と友達になりたいと強く思うようになりました。
背が高くて可愛い女の子で、勉強もスポーツも得意な人。
そう、私とはまるで反対のタイプだったのです。
どんなふうに声をかければ良いのか分かりません。
天邪鬼の私は、ついに彼女を怒らせてしまったのです。
悲しい気持ちとはウラハラに、どんどん関係は悪くなって行き、結局最悪の状態で卒業することになりました。
あれから数十年。
神様のイタズラと言うべきか、何と今、子供が同じ学校に通っているのです。
地元を離れ暮らしているというのに、それほど遠くはない場所で家庭を持って暮らしている。
なんとも不思議なご縁です。
だから思うのです。
もしも、一緒に洒落たレストランで食事をすることができたらどんなに良いだろうかと。
謝るチャンスをもらえたらどんなに良いだろうかと。
相手の方が、私に気が付いているかどうか分かりませんが、もしもそんな夢物語のようなことがあったら良いなと思っています。
人の縁とは不思議なものです。
もしも、そんな素晴らしいチャンスを与えてくれるなら、私は本気で謝りたい。
そして、友達になれなくても良いから、わだかまりを解きたいと思っています。
やっぱり難しいことでしょうか?
でも、諦めたくはなく気持ちです。